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エクイティファイナンス×7つの習慣|Win-Winを考える

エクイティファイナンス×7つの習慣 |Win-Winを考える

【プロフィール】
Open Network Lab 原 大介

2005年慶応大学卒業、公認会計士試験合格。2007年より新日本有限責任監査法人勤務。金融業や製造業等の様々な業務の監査に従事。2012年より2年間、アメリカ・シリコンバレーに出向、現地でアメリカ企業の上場を支援(3社)。2015年より、不動産ビッグデータを利用したコンサルティング会社・ゴミを原料としたケミカルリサイクルを営む会社でCFO。エクイティのみならず、デッドや助成金等の様々な資金調達手法に精通。現在までの累積調達額は130億円超。2019年11月よりDG参画。

Open Network Lab(以下、Onlab)は「世界に通用するスタートアップの育成」を目的に、Seed Accelerator Programを2010年4月にスタートしました。これまで数百社以上のスタートアップを支援・育成してきました。今回はエクイティファイナンスに心がけておきたいTipsをご紹介します。

【シリーズ目次】
第1の習慣:主体的であること
第2の習慣:終わりを思い描くことから始める
第3の習慣:最優先事項を優先する
第4の習慣:Win-Winを考える
第5の習慣:まず理解に徹し、そして理解される
第6の習慣:シナジーを創り出す
第7の習慣:刃を研ぐ

こんにちは。原大介です。私は、デジタルガレージのOpen Network Lab(以下、Onlab)で、主にプレシード〜シリーズA前後のスタートアップ向けにファイナンスの支援をしています。具体的な支援内容としては、各社の資本政策を一緒に検討したり、事業計画を一緒に作ったり、金融機関や他の専門家を紹介しています。まず、本記事を書いたきっかけですが、私のスタートアップに対するアドバイスは突き詰めると、

①相手のことを理解しましょう
②IPOから逆算して資本政策を作りましょう
③交渉では常に主体的でありましょう

の3点なんですが、この3点は自己啓発の名著である「7つの習慣」

に書かれている内容と同じだなと感じました(パラパラと目次をめくっている時に気づきました)。今回は少し志向を変えて、エクイティファイナンスについて、7つの習慣の観点から説明してみます。(尚、ここに書かせて頂くアドバイスのいくつかは既に他の記事で記載している内容と重複している点についてはご留意ください。)

7つの習慣は、私的成功、公的成功、最新再生の3部構成になっており、私的成功の習慣として、①主体的である、②終わりを思い描くことから始める、③最優先事項を優先するがあり、公的成功の習慣として、④Win-Winを考える、⑤まず理解に徹し、そして理解される、⑥シナジーを創り出すがあり、最新再生(①~⑥の習慣を実行するため)の習慣として、刃を研ぐがあげられます。エクイティファイナンスに例えると、私的成功とはきちんと自分たちのファイナンスを成功させること、公的成功とは自分たちだけではなく投資者にもしっかりと成功してもらうこと、最新再生とは1度の成功にとどまらず更なる高みに上っていくことだと思います。

今回は第4の習慣である「Win-Winを考える」をファイナンスの観点から説明していきます。

第4の習慣である「Win-Winを考える」では、Win-Winを以下のように定義しています。

Win-Winは、すべての人間関係において、必ずお互いの利益になる結果を見つけようとする考え方と姿勢である。何かを決めるときも、問題を解決するときも、お互いの利益になり、お互いに満足できる結果を目指すことである。Win-Winの姿勢で到達したソリューションは、当事者全員が納得し満足し、合意した行動計画に必ず実行する決心をするものである。Win-Winのパラダイムは、人生を競争の場ではなく協力の場ととらえる。

スタートアップのエクイティファイナンスにおけるWin-Winの相手方は言うまでもなく、投資家です。スタートアップも投資家も納得した条件でファイナンスを実行するのは、言うのは簡単ですが、実際に実行するのは大変難しいです。

何故、難しいかというと、一般的に、スタートアップ側にはバリュエーションを上げるインセンティブがあり、逆に投資家側にはバリュエーションを下げるインセンティブがあるからです。

スタートアップは、今回のバリュエーションが高ければ、放出率を抑えたまま欲しい金額を調達できますし、次回以降のラウンドでも余裕ができます。一方、投資家はバリュエーションを抑えることが出来れば、エグジット時のリターンが上がります。結果として、投資そのものでは合意を得られても、バリュエーションを巡ってスタートアップと投資家が対立してしまったり、スタートアップ側が投資家を何とか自分たちの条件を通そうと作戦を練るケースが多々あります。

このような対立関係になってしまうと、Win-Winの関係を築くことは難しく、おそらくどちらかが負けることになります(バリュエーションを相手の言い値まで調整する等)。Win-Loseの関係になってしまうと、負けた方は負けた事実をなかなか忘れません。スタートアップと投資家の付き合いは長期に及ぶものとなるため(10年近い付き合いになることもありますし、両者の関係は結婚に例えられることもあります)、スタートから後々の禍根を残すような状態は望ましくないでしょう。

では、このような場合はどうすればいいでしょうか?7つの習慣では、Win-Win or No Dealというのを提案しています。

これは、Win-Winの関係にならないのであれば、取引に合意しないこととすることです。このやり方であれば、自分たちの要求を無理に通したり、相手のバリュエーションの金額を飲んで後味が悪くなることもありません。また、No Dealであれば、今回は取引がなかっただけで、次回はまた取引のチャンスがあることを示唆しています。

一方で、取引完了まであと少しというところで、取引をなしにするのは大きな勇気がいりますし、会社の財政状態にもゆとりがないと難しいと思います(ゆとり持つ重要性、主体性を持つ重要性については第1回で説明しています)。なので、ファイナンスはゆとりを持って始めるのが重要ですし、投資家についても取引が完了するまでは確実視せず、幅広い投資家と交渉していくことが重要だと思います。

また、7つの習慣では、Win-Winを実現するためには、5つの側面があると言います。その一部を紹介すると、5つの側面のうち1つはプロセスで、目的がWin-WinであるならばそのプロセスもWin-Winである必要があります。

過去に上手くいっているスタートアップのファイナンスを見ていると、事前準備をしっかりして、予め論点になりそうなところを明確化し、その点についてきちんとディスカッションして、着金まで流れるようにいくところが多いです。

一方、うまくいっていないケースについては、最後の最後に条件面で揉めたり(普通株式にするか優先株式にするか等)、投資が決まった後に登記の不備が発覚したり(取締役の再任が登記されていなかった)等プロセスがスムーズでないケースが非常に多い印象です(私はスタートアップのファイナンスを支援する時には最初に定款と登記簿をチェックして、法務面でミスがないかどうかをチェックすることが多いです)。

さらに、7つの習慣では信頼口座という概念も説明しています。信頼口座とは人と人の関係で生まれる信頼を蓄えておける口座です。この概念とエクイティファイナンスは非常に相性がいいです。例えば、今回の資金調達をしてもらえなくとも、今後一緒にやっていきたい投資家の方とはマメに連絡をとりましょう。私がCFOをしていた会社では長年の交渉をしてやっと投資をしてくれた先もありますし、2021年3月に上場したココナラは創業当初よりJAFCOに定期的に連絡をとり、3年以上やりとりをした後投資をしてもらっています。投資家に対して信頼口座の残高を貯めるようなつもりで、定期的に近況報告をしていきましょう。

7つの習慣では、第4の習慣である「Win-Winを考える」において、自分だけでなく相手にとってもWin-Winの関係を目指す重要さを説明しており、そうならない場合には取引しない重要性を説明しています。第1の習慣から第3の習慣までは、私的な成功を指しスタートアップのファイナンスをどのように成功させるかという話でしたが、今後は投資家も含めてどのようにお互いが成功できる状態にしていくかについて説明できればと思います。

7つの習慣は、ファインナンス活動向けに書かれた本ではありませんが、普遍的内容であるため、ファイナンスにも役立つかなと思い、本記事を執筆してみました。

以上、エクイティファイナンス×7つの習慣でした。

(執筆:原 大介 編集:Onlab編集部)

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