BLOGOnlab Journal

スタートアップが実践、聴衆を惹きつけるピッチの伝え方を解説|スタートアップのためのTips!

スタートアップが実践、聴衆を惹きつけるピッチの伝え方を解説

デジタルガレージでは日本初のスタートアップ向けアクセラレータープログラム「Open Network Lab Seed Accelerator(以下、Onlab)」を2010年4月より開始し、gifteeSmartHRPOPERといった上場や資金調達を経て成長し続けるスタートアップを輩出してきました。

スタートアップは普段から顧客や投資家など、さまざまな立場の方に事業について伝える機会がありますが、大量の情報を詰め込んだり抑揚なく一方的に話したりしていると、せっかくのサービスの魅力や自社の価値が伝わらない場合があります。今回はピッチなどや伝える場面に欠かせない「話し方」のポイントを解説します。

登場するのは、Onlab 第25期 Demo Dayにてオーディエンス賞を受賞した株式会社カエカ 代表取締役の千葉 佳織さんです。伝え方トレーニングサービス「kaeka」を運営している千葉さんは、Onlabプログラムで支援先スタートアップに向けた「PITCH話し方レクチャー」の講師も務めていただいています。

< プロフィール >
株式会社カエカ 代表取締役 千葉 佳織

15歳から日本語のスピーチ競技、弁論を始める。2011年から2014年までに内閣総理大臣賞椎尾弁匡記念杯全国高等学校弁論大会など3度の優勝経験を持つ。慶應義塾大学在学中にBS番組でキャスターを務め、卒業後は新卒で入社したDeNAで代表取締役や登壇者のスピーチライター業務の立ち上げに携わる。2019年株式会社カエカを設立。経営者(上場企業やIPO前)や政治家(国会議員・首長・地方議員)を対象とするスピーチライティングやスピーチトレーニングを手掛ける。また、社会人を対象とした伝え方トレーニングサービス「kaeka」の運営を行う。これまで4000人以上に講演活動とトレーニングを行っている。2021年世界経済フォーラム(ダボス会議)グローバルシェイパーズメンバーに選出。2023年1月に話す力を数値化し強みと課題を見つける「kaeka score」をリリースする。

トレーニングで変わる。「話し方」を上達させる3つのポイント

― 千葉さん、本日はよろしくお願いします。まずは自己紹介と「カエカ」について教えてください。

私は普段、株式会社カエカで代表兼スピーチトレーナーを務めています。カエカは「すべての人生にスポットライトを」というミッションを掲げており、伝え方トレーニングサービス「kaeka」を提供しています。経営者の方や政治家の方、社会人の方など4000人以上の方にデータに基づいた伝え方を提案しています。伝え方を学ぶことで、どなたでも時代を変える開拓者やヒーローになれると確信しています。

― Onlabプログラムではレクチャーコンテンツとして、ピッチを直前に控えたスタートアップに「PITCH話し方レクチャー」を提供していると伺いましたが、どんな内容でしょうか?

私たちカエカが定義している「伝える力」は「内容」と「話し方」の2つで構成されています。この2つのどちらかに偏っても「話す力」の本質的な課題を解決することには繋がりません。例えば、どんなに内容が充実していても話し方が「え〜◯◯なんですけどー、あの〜◯◯で」では説得力がなく聞こえてしまいますし、逆にどれだけ明瞭に話してもどこかで聞いたことのある内容や一方的に自社の素晴らしさを伝えるだけの内容では聞き手に興味を持っていただけません。この点から「伝える力」を上達させるには「内容」と「話し方」の両方からアプローチすることが重要です。

私たちは3年間の実績をもとに、オリジナルで14個の指標に分けて「話す力」を上達させるトレーニングを実施しています。Onlabには独自のピッチノウハウに基づいたプロットの組み立て方や、投資家や聴衆に刺さるストーリー設計が存在するため、今回はスタートアップ向けのトレーニングとして「話し方」にフォーカスしています。例えば、声の大小や高低、速度、間の確保といった「音声情報」と、目線や表情、立ち位置といった「動作情報」です。

― とはいえ、話し方の癖はトレーニングで変わるのでしょうか?

はい。実は「話す力」は先天的な能力ではなく、努力で得られます。事業の検証にも似ていますが、自分ができていること・できていないことを振り返りながら練習することで「話し方」は上達します。「PITCH話し方レクチャー」で紹介した「話し方」を上達させる3つのポイントを順番に説明しますね

ポイント① 決め手は「2秒」。意図的な「間」で聴衆の関心・理解を深める

まず「間の確保」。「間」とは言葉を発していない時間を指します。話している時にこの「間」がないと、聞き手からすると大量の情報が右から左に流れていく感覚に陥ったり、話し手の余裕のなさを感じたりしてしまいます。間を作ると、聞き手が内容を理解しやすくなるだけでなく「え〜」「あの〜」といったフィラーワード(次項に記載)や早口を防げるようになり、総じて堂々として見えます。また「皆さんは◯◯を使ったことがありますか?」と投げかけた後、間髪をいれずに話していませんか?これでは相手の回答を聞く気がないと思われてしまいます。

ピッチイベントではできるだけ多くの情報を詰め込んで話さなければなりませんが、前文の「。(句点)」の後に2秒空けることを意識してみてください。1文ずつ話が区切れて聞こえやすくなりますし、話が変わるタイミングも理解していただきやすくなります。強調したい言葉は前後に意図的に間を作ると際立ち、オーディエンスの期待を高める効果も絶大です。ただ、時間制限のあるピッチでは全ての文末に2秒空けることは難しいので、状況に合わせて1.5秒、1.6秒を設けるといいかもしれません。ちなみに1秒だと話が耳から流れていき、3秒ではため過ぎていると思われやすいので「2秒」がちょうどいいんです。

< おすすめ練習法 >
間を空ける時、皆さんは頭の中で1、2と数えますが、緊張している本番では速くなってしまいます。そこで「これくらい空けるといい」を体感で掴んでおきましょう。2秒がどれくらいなのか、また、普段ご自分がどれくらいの間を取って話しているのかを把握するには、ストップウォッチを使うことをお勧めします。お手持ちのスマートフォンでストップウォッチ機能を開き、「スタートボタン」と「ラップタイム」を押しながら「話している時間」と「間を取っている時間」を交互に計測します。可能であれば2人一組になって相手の秒数を測ってあげると練習が捗りますね。

ポイント② 「え〜」「あの〜」をやめる。聞き取りやすく堂々としたピッチに

次は「フィラーワードの削減」。「フィラーワード」とは「え〜」「あの〜」「え〜と」など、話の冒頭や途中で無意識に出てしまう意味のない言葉を指します。「え〜◯◯なんですけれど、あの〜◯◯で」と話すとだらだらと長くなって要点や話し手の考えが曖昧に聞こえてしまい、全体的に落ち着きがない印象を与えます。

このフィラーワードには数種類あり、ご自分がどちらを使う傾向があるのかを認識しておくと対策しやすくなります。1つ目は、文頭に入るフィラーです。「え〜これから◯◯について説明いたします」「え〜ただ今より◯◯を開始します」といった感じですね。2つ目は「先日◯◯へ行ったんですけれど、え〜その時に」と文節の区切りに入るフィラーです。 3つ目は「これはですね、え〜、とても、お〜、良いと思いまして、え〜」と政治家の方に多く見られる母音を引きずるフィラーです。フィラーワードの有無によって話の鮮明度や聞き手の理解度、与える印象は変わってきますので、ピッチの本番でもぜひ注意していただきたいです。

< おすすめ練習法 >
1分間の事業概要のトークスクリプトを作成して暗記した後、それを見ないで発表してみてください。会社のメンバーにご協力いただいて、発表している途中でフィラーワードが出たり、2秒空けなかったりしたら指摘をしていただきましょう。そうしたらまた最初からやり直す、をできるようになるまで繰り返します。練習を重ねておくと本番のピッチで「重要なメッセージや数字を強調できた!」と実感すると思います。

ポイント③ ジェスチャーでキーワードを強調。視覚的にも聴衆を惹きつけよう

ジェスチャーとは意思伝達のための身振りや手振りのことを指し、キーワードを強調したり、スライドを指し示したり、視線を集めたりする効果があります。例えば、オンライン会議で「私たちはこんなことに取り組んでいます」と言いながら手のひらを出すのは「大げさかな・・・」と躊躇されがちですが、画面越しで見ている方には意外と違和感なく映ります。ジェスチャーは「体の可動域分の種類がある」と言われており、手を斜めに出すのか、広げるのか、あるいは前に持ってくるのかでも意味合いをコントロールすることができます。

いかにピッチでオーディエンスの視線を集めて記憶に残すのかは、タイミング良く手をご自分の目線の近くまで持ってこられるかにかかっている、と言っても過言ではありません。手を胸よりも下に差し出しても目立ちませんし、すぐに下ろしたらどのポイントを主張したいのかも分かりづらいですよね。このジェスチャーは1分に1〜3回の頻度で「ここを強調したいんだ」というところで有効に使い、聞き手の関心を集めましょう。

< おすすめ練習法 >
聴衆の意識を向かせるためのジェスチャー方法として手の開き方による違いをカエカでは「グーチョキパーの法則」と呼んでいます。「グー」は「私たちはこのサービスによって◯◯を実現していきます」と伝える時、拳を作って力強さや熱量を表現できます。続いて「チョキ」は「私たちのサービスには主に3つの特徴があります」など、数字を伝える時の手を総称して呼んでいます。「パー」はどんな場面でも使いやすく、手を開いた状態では力強さや自然な印象を、指を揃えた状態では理性やフォーマルな印象を与えます。「パー」のスタイルは好みやご自分のイメージに合わせて選ぶといいでしょう。

Open Network Lab Seed Accelerator Program 第25期 Demo Day時の千葉さん

おすすめのピッチ暗記方法

ここまでカエカの「話し方」における3つのポイントを紹介しましたが、個人的にお勧めするピッチの暗記方法も添えておきます。私はピッチの内容を書き出したスライドを2枚ごとに読み上げてスマートフォンで録音し、通勤や移動の時に聴きながらマスクの下でシャドーイングをしていました。好きな曲の歌詞を覚える時のようにスライドの言葉が頭に入ってきやすいので「なかなか覚えられない」「何度も練習しなきゃ」とスライドを何度も見返すよりも、録音の音声に頼ってみることをお勧めします。

― 千葉さん、ありがとうございました。明日からさっそく始められる練習法、大変勉強になりました。

Onlabプログラムでは今回の「PITCH話し方レクチャー」をはじめ、スタートアップの皆さんが抱えているお悩みを解決するイベントや勉強会を開催しています。事業の「足りないところ」や「自信のないところ」を解決したい、起業について相談したい、資金調達に関して質問したいという方は事業相談会を実施していますのでお気軽にお問い合わせください。

(編集:佐野 桃木 / Onlab事務局)

最新のイベント情報や記事、Onlabの各プログラム募集のお知らせ等をメールにてお送り致します。