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サステナブルな時代の在宅ワーク用家具。WAAK°が狙う「既存の家具メーカー」からの脱却|Meet with Onlab Grads Vol.39

サステナブルな時代の在宅ワーク用家具。WAAK°が狙う「既存の家具メーカー」からの脱却|Meet with Onlab Grads Vol.39

Open Network Lab(以下、Onlab)は「世界に通用するスタートアップの育成」を目的にSeed Accelerator Programを2010年4月にスタートし、これまでに数々のスタートアップをサポートしてきました。今回紹介するのはリモートワークデスクを中心としたオフィス家具D2Cブランド「WAAK°」です。

ワアク株式会社(以下「ワアク」)の代表である酒見さんは、家具の一大産地である福岡県大川市の出身で、家具メーカーの4代目です。とはいえ酒見さんは、既存の家具メーカーの枠組みではない成長を志向していました。そんなとき、ひょんなことから急成長する組織であるスタートアップと出会い、「リモートワークデスクを中心としたオフィス家具D2Cブランド」を着想します。

WAAK°を作るに至った経緯や開発しているプロダクト、既存の家具メーカーがいかにして急成長ビジネスを目指すようになったのか酒見さんにお話を伺いました。

< プロフィール >
ワアク株式会社 代表取締役CEO 酒見 史裕

1978年、福岡県大川市生まれ。家業の家具製造会社丸惣に入社後、デザイン事務所を設立。2016年、父の逝去に伴い丸惣の代表取締役に就任。自社ブランド・FIEL(フィール)を立ち上げて業績が低迷していた会社を再建。2019年にオフィスデスク専門のD2Cブランドとなるワアク株式会社を設立。

顧客の声を武器にした製品づくりとデジタルマーケティングを活用したオフィス家具メーカー

― WAAK°で開発しているプロダクトについて教えてください。

ワアク社では、リモートワークデスクを中心としたオフィス家具D2Cブランド「WAAK°」を運営しています。

コロナ禍を機にリモートワークを始めた方や会社は多いと思いますが、デザイン性や生産性を兼ね備え、かつこだわりを持つ人のニーズをすべて満たす在宅ワークの家具は少ないのが現状です。また、例えば背の高い方は規定のサイズの机や椅子だとサイズが合わない場合もあります。そこでWAAK°では、インテリア性の高い無垢材を使った電動昇降デスク「WAAKstation2」や、オーダーメイドでデスクを制作するプロジェクトである「WAAKtailored」を提供しています。これらはすべて、自宅の家具に馴染んだり、配線を隠せるようにしたスタイリッシュなデザインが特徴です。

WAAK°の生産地は福岡県大川市なのですが、ここは実は日本一の家具産地。私自身も大川の家具メーカーの跡を継いだ4代目です。なのでWAAK°の家具はすべてその工場で作り、販売しています。

ワアク株式会社 代表取締役CEO 酒見 史裕 氏
ワアク株式会社 代表取締役CEO 酒見 史裕 氏

― WAAK°は「リモートワークデスクを中心としたオフィス家具D2Cブランド」を謳っていますが、一般的にD2Cといわれるブランドの多くは自社工場をもっているわけではありません。WAAK°は自社工場の存在が武器になっているのでしょうか。

その通りです。自社工場があることによって、製造スピードを段違いに早くできるんです。試作検証のスピードも早くなるし、すり合わせのためのコミュニケーションも少なくなる。また私が製造側の知見をもっていることが、商品開発にも有利に働いています。一般的な家具メーカーは、商品の企画から販売まで約1年かかると言われていますが、それに対してWAAK°は通常6〜8ヵ月、最短で3ヵ月ほどの時間で商品をリリースできる体制を整えました。

商品開発のプロセスも既存の家具メーカーとは違います。昔ながらの家具屋では、社長が「ミラノでこういうのが流行っていたから、次はこういう商品を作ろう」といったように、経験や感覚に頼った商品開発が未だに行われています。

― 良く言えばプロダクトアウトというか……

この場合は悪い意味でのプロダクトアウトです(笑)。商品を使うのはユーザーなのに、商品開発に実際にお使いになるユーザーの視点が不在なのには、私もずっと違和感がありました。だからWAAK°では、ユーザーインタビューをしたり、インサイトをしっかり確認することから商品開発を始めています。試作品を作ったらリリースする前に試作検証会をやって、想定ユーザーに使ってもらい、フィードバックを元に製品を改良します。スタートアップからしたら当たり前なんですけどね。家具製作にスタートアップの経営手法を取り入れる。これは普通の家具屋とは違うポイントだと自負しています。

ワアク株式会社 代表取締役CEO 酒見 史裕 氏

自社で作っているから製品カスタマイズがしやすいという利点もあります。「WAAKstanding Pro」という製品は、サイズがオーダーできるのですが、マンションを購入したり新築の家を建てたりするタイミングで購入いただくお客様が多いんです。というのも、部屋の雰囲気にマッチしていて、かつちょうどいいサイズの家具ってなかなか見つからないんですよね。その点WAAKstanding Proなら、センチ単位で商品を用意できるので、家の間取りにピッタリ合わせていただくことができます。

― 他にも既存の家具メーカーとWAAK°の違いはありますか?

デジタルマーケティングに取り組んでいる業者が少ないのも家具業界の特徴です。アマゾンや楽天といったモールの中で広告を出しているようなケースはもちろんありますが、せいぜいそれくらい。折込チラシをまいて、催事やホームセンターに来てもらい、低〜中価格帯の家具を買ってもらう。これが多くの家具メーカーの戦い方です。

― デジタルがあまり活用されていない業界なんですね。

そうなんです。デジタルを活用しようとしているのは、違う業界からきたスタートアップばかり。ならばWAAK°は、オンラインやマーケティングも強みにできるんじゃないかと考えました。つまりWAAK°は、デジタルを活かした家具販売にチャレンジしているんです。安くていいものは、正直いってニトリやIKEA、無印良品などで手に入る。一方でちょっといい家具を探してみると、海外の輸入家具がソファ1脚200万円とか高価な価格帯になります。その間のレンジはあまり耳にしないようなファクトリーブランドだったり、デザインか機能性どちらかしかない商品が多い。実用性があって、デザインも良くて、品質もよくて、値段もほどほど。しかも在宅ワークに使える。WAAK°が狙っているのは、この市場です。

繰り返しのユーザーヒアリングで捉えた在宅ワーク家具の課題

― 酒見さんの経歴を教えて下さい。どうして家具メーカーの跡継ぎがスタートアップ企業を経営するに至ったのでしょうか。

実は若い頃私はバンドマンだったんです。けど大成することなく、25歳のときに家業である家具工場の手伝いを始めました。先代であった私の父は生粋の職人で、「いいモノづくりをしていれば商品は売れる」という考えをもっていたようで、確かに父は質のいい商品は作るのですが、中国を始めとした海外製品に比べると、どうしても価格が高額になってしまっていました。なので単にいいモノを作るだけではなく、ちゃんと「高くていいものだというブランディング」をしないと売れないなと私はずっと感じていたんです。

ワアク株式会社 代表取締役CEO 酒見 史裕 氏

とはいえ、自分たちにはブランディングのノウハウもなければ外注する予算もない。そこでグラフィックデザイナーの友人とデザイン事務所を立ち上げて、デザインやブランディングをビジネスを通して学ぶことにしました。その会社を5年ほど経営してからまた家業に戻り、先代が病気で亡くなったこともあって、その家業を正式に継いでいます。

家業を継いで落ち着いてきた頃、ちょうどZOZOテクノロジーズ社の福岡事務所ができるということで、オフィス家具を納品したんです。その縁もあって事務所のオープニングパーティに参加させてもらったのですが、非常に活気があったんですね。この頃はちょうど「もっと業績を伸ばしたいと思ったら、既存のルールに従っているだけだと厳しいな」と感じていた時期だったのですが、その活気に当てられて、スタートアップというものに興味をもったんです。そうしたら偶然、福岡のFukuoka Growth Next(FGN)というスタートアップ支援施設で、スタートアップイベントが開催されるという情報を知人がFacebookでシェアしているのを見つけました。それで興味をもって行ってみたのです。

― FGNのイベントはどんな内容だったのでしょうか。

最初にスタートアップファイナンスの講義を受けて、そこで「エクイティファイナンス」という存在を初めて知りました。「株式で調達なんていう方法があるんだ!」と衝撃を受けたのを覚えています。それまで銀行から借りることしか知らなかったですからね。また、アメリカにはスタートアップがたくさんあるけど、上位数社の時価総額合計が、それ以外の時価総額合計よりも大きいなんていう話を聞いたりして、すごい世界だなと感じました。それでスタートアップとしての事業計画を作りはじめた、というのがWAAK°の始まりです。

最初はオフィス向けに家具のサブスクみたいなことをやっていたのですが、2020年にコロナ禍になって、オフィス家具の需要は停滞。オフィスから人はいなくなり、みんな自宅から在宅ワークするようになりました。でも、自宅で使える仕事用の家具にはちょうどいいものがないことに気がついたんです。そこで今の「在宅ワークデスクを中心としたオフィス家具D2Cブランド」というアイディアの着想に至りました。この分野はまだ確たるプレイヤーもいないし、ブルーオーシャンだと思いましたね。

― 「在宅ワーク用の家具」にはどんな課題があるのでしょうか。

わかりやすいところでいうと、配線がごちゃごちゃになって散らかってしまったり、オフィス家具をそのまま住空間に配置するとどうしても違和感が出てしまうことですね。なので配線を整理できて住空間にもフィットするデスクの製作から取り掛かりました。最初は鳴かず飛ばずだったのですが、1年程経ったころにTwitterでバズってメディアに取り上げてもらったり、そこから風向きが変わってきました。

ワアク株式会社 代表取締役CEO 酒見 史裕 氏

常にユーザーにヒアリングさせてもらって、どんどん新商品を開発していきました。例えば今は、WAAKwagonという、仕事に必要なモニターやツールを自由に配置できるキャスター付きワゴンを準備しています。ワゴンに荷物をおいて、小物も入れて、配線をすっきりさせる。机1台でも夫婦2人でも使えるようなアイテムになっています。

ワアク株式会社 代表取締役CEO 酒見 史裕 氏

― ユーザーヒアリングは頻繁にされているんですか?

そうですね。昨日も一昨日もしてきました。最近は、購入してくれたけどまだ納品していないお客さまのヒアリングも始めています。記憶が鮮明なうちに、どういう経路で、どうして買ってくれたのか。カスタマージャーニーに従って聞いたり、色々試しています。

ただ、ユーザーヒアリングは難しいですね。聞いた話を鵜呑みにしてもいけないんです。例えば「このサイズのアイテムが欲しい」という発言があっても、「なぜ」「なぜ」「なぜ」と繰り返していくと、サイズの問題じゃないことが間々あるんです。ユーザーが言ったことをそのまま商品にする、「黒いデスクがほしい」と言われて黒いデスクを案内する。それなら単なるオーダーメード家具屋です。WAAK°はそうではなく、皆さんがもつ普遍的な課題を探し出し、それを解決する商品をつくっていくブランドになっていきたいと考えています。

自分はまだやりきっていない。今も思い出すメンターの行動力

― Onlab当時のお話も聞かせて下さい。ワアクがOnlab(編注:現在のOnlab seed Accelerator)に参加した経緯を教えてください。

Onlab FUKUOKAを担当しているデジタルガレージの大木さんがちょうどFGNにいたので、資金調達の相談をしに行ったんです。当時OnlabもESGファンドを立ち上げたところで、相性がよさそうだなと思って。そうしたら「採択されたら出資もついてくるから」とOnlabプログラムを勧められたんです。それでOnlabのことを調べてみたら、SmartHRはじめ名だたる先輩起業家がいることを知って、色々学ぶことがありそうだなと思って応募しました。

― SmartHRにしても、Onlab卒業生の企業はほとんどがSaaSのようなソフトウェアの会社です。他方でWAAK°はモノづくりの会社。そのギャップに心配はなかったでしょうか。

確かにWAAK°の商材はモノですが、それをどのようなビジネスモデルで提供するのか、例えばサブスクリプション形式で提供するのか、売り切りにするのか、世の中にプロダクトの価値をどうやって提供するのか、どういったマーケティングで伝えていくのかという点は学ぶことが多いと思っていたので、特に心配はなかったですね。言ってみれば最初にやっていたサブスクだって「Furniture as a Servicece」ですからね。

― Onlabに応募してから印象的な出来事はありましたか?

まずOnlabに入るための選考面談が印象に残っています。Onlabを紹介してくれた大木さんを含めたOnlabのメンバーから集中砲火されて(笑)。

このときに限らずですが、最後まで常に言われていたアドバイスは「ただの家具屋と思われないように」でした。「プロダクトはいいとしても、それの見せ方・伝え方で、未来が変わってくる」と。それはおっしゃる通りなので、じゃあ何をもって単なる家具屋ではないと言えるのか。その説明は今でも苦労している点です。そういう意味では、今WAAK°はオンライン接客に力を入れているのですが、そういった部分をもっとアピールする必要があるのかもしれません。もっとスマートに賢くやりたいのですが、まだまだ模索中です。

ワアク株式会社 代表取締役CEO 酒見 史裕 氏
Demo Dayでピッチする酒見 氏(デジタルガレージ撮影)

― 採択されてからの3カ月間はどのように過ごされましたか?

あの3カ月はしんどすぎて記憶があまりないんです(笑)。Onlabはほんとに大変なんですよ。Demo Dayにしても、前日、なんなら当日のギリギリまでピッチのフィードバックやアドバイスをOnlabの皆さんがくれるので、その対応でいっぱいいっぱいでした。でも後からピッチ資料を見返すと、確かに質が上がっているんですよね。解像度が上がっていたり、客観性が出ているのが自分でもわかります。今ではやって良かったと思うんですけど、やってる最中は本当にしんどかったです(笑)。

― 役に立ったアドバイスや出来事はありますか?

メンターの中に当時メディア運営をしていた方がいるのですが、彼がそこらの起業家とは比較にならないぐらいすごくて。当時ライバルメディアの調子がよかったらしくて、直接アポを取ってそのライバルに話を聞きにいったって言うんです。ビジネスの内容だけでなく、そのマインドセットが刺激になりました。大企業の中の新規事業でも、こんなに本気でやるんだと。自分はまだまだ甘かったなと感じました。あのときの話は今でも思い出します。

新たな常識をつくるWAAK°が見据えるサステナブルな家具市場

― WAAK°の今後の構想を教えてください。

家具の市場規模そのものを広げていくために、作った家具の2回目、3回目のキャッシュポイントを作っていきたいと考えています。つまり、家具の二次流通市場をつくっていきたいんです。

ワアク株式会社 代表取締役CEO 酒見 史裕 氏

安い家具は部品がすぐに壊れてしまうので、二次流通しにくいんですよね。二次流通するためには、一次流通の時点でちゃんといい素材を使って、分解することを前提とした設計にしておく必要があります。その点、例えばWAAK°のデスクは、オークやウォールナットの無垢材を始め、高品質で耐久性の高い素材を使っていますし、後々分解できるように設計してあるんです。だからWAAK°のデスクはパーツごとに分解できるんですよ。当然、一部の部品だけ変えるということも可能です。なので最初に買っていただいたデスクを引き取って修理し、リユース商品として販売できる体制を整えていきたいですね。

― 回収を前提としている家具は市場にはあまりないのでしょうか。

ないと思います。基本的には1回の売上でしっかり利益を取れるかという点だけ気にしてきた業界ですからね。その考え方は、今のサステナブルな時代にそぐわないので、そこを変えて、新しい業界の常識を作り、ひいてはカルチャーとして一般の人たちにも当たり前に感じてほしいと思っています。

WAAK°のデザインスタジオでワアクのメンバーと
WAAK°のデザインスタジオでワアクのメンバーと

あとは、やはり海外にも販売していきたいです。海外の在宅ワーク向けサービスを覗いている限りは、国内外で大きくニーズは変わらない気がしています。昇降デスクなんかは背が高い外国人の方でも簡単にフィットさせられますからね。大川から新しい家具の常識を世界に広めていきたいです。

(執筆:pilot boat 納富 隼平 撮影:taisho 編集:Onlab事務局)

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