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建設業の見積最適化SaaS「GACCI」スタートアップ成長の事業推進に込める思いとは|Road to Success Onlab Grads Vol.23

建設業の見積最適化SaaS「GACCI」スタートアップ成長の事業推進に込める思いとは|Road to Success Onlab Grads Vol.23

Open Network Lab(以下、Onlab)は「世界に通用するスタートアップの育成」を目的にSeed Accelerator Programを2010年4月にスタートし、これまでに数々のスタートアップをサポートしてきました。今回登場するのは、Onlab第25期生で建設業の見積業務を行うSaaSプロダクトを開発する株式会社GACCIです。Onlabの採択からこれまでどのような支援をしてきたのか、そして今後の展望について、株式会社GACCI代表取締役CEOの若本さんと、デジタルガレージでスタートアップ支援を担当する崎島と松田にお話を伺いました。

< プロフィール >
株式会社GACCI 代表取締役CEO 若本 憲治

2014年に起業し、M&Aや新規創業をしながら鳥取で7社の中小企業を経営。2020年に公共工事の入札情報サービスを事業承継し、建設業のユーザーからの声をもとに「GACCI」を着想。2021年にG’s ACADEMYへ入学し、エンジニアと共にプロダクト開発に着手。2022年7月から10月にかけて日本のアクセラレータプログラムの草分けである「Open Network Lab」に参加。第25期Demo Dayにて最優秀賞を受賞。

株式会社デジタルガレージ 執行役員 インキュベーション本部長 崎島 淳一

総合商社にて東京、ニューヨーク、ロンドンを拠点にテクノロジー企業向け投資事業などに従事。その後、グローバルアパレル企業にて、M&A・事業開発・サプライチェーン改革などに携わる。テックスタートアップを経てデジタルガレージに参画。現在、執行役員・インキュベーション本部長として、グループを横断した新規戦略事業の創出を統括。

株式会社デジタルガレージ オープンネットワークラボ推進部長 松田 信之

東京大学大学院工学系研究科卒。大学院在学中に学習塾向けコミュニケーションプラットフォームを提供するスタートアップを共同設立。卒業後、株式会社三菱総合研究所において、民間企業の新規事業戦略・新商品 / サービス開発に係るコンサルティングに参画。スタンフォード大学への留学時にシリコンバレーのスタートアップエコシステムについて学ぶ。2019年4月より株式会社デジタルガレージにおいて、スタートアップ投資およびアクセラレータプログラムを軸とするスタートアップ支援に携わる。

投資と事業を繋ぐ役割。Onlabでの出会いから次のステージへのアクセラレート支援へ

― GACCIは先日リリースを発表されていましたが、若本さんのご経歴や現在のプロダクトについて教えてください。

若本(GACCI):ありがとうございます。先日、日経新聞にもご掲載いただきましたが、シードラウンドで1億円の資金調達を実施いたしました。

私はもともと7社の中小企業を経営していましたが、2020年に鳥取県内の公共工事の入札情報を提供するサービス事業を承継したことをきっかけに建設業に携わっています。現在、見積もり業務にかかる負担に悩むお客様に向けて「GACCI」という建設業の見積業務をSaaSで最適化するプロダクトを開発しています。建設業界の主に設計と施工の間の領域を「プレコンストラクション」と呼んでいるのですが、設計の完成後から建設の開始までに発生する見積もりや受発注、積算といった業務の効率化に取り組んでいます。

― GACCIは以前、情報ネットという社名でしたが、GACCIに社名変更した背景は何でしょうか。

若本(GACCI):先述の事業承継を実施した企業が「情報ネット」という社名で経営していたのでそのまま使用していましたが、今後GACCIを全国展開していくにあたり「プロダクト名が社名になっている方が分かりやすい」とさまざまな方からアドバイスを頂いたことをきっかけに変更しました。GACCIという名前は、建設業はプロジェクト毎に複数の企業が1つのチームでオーダーメイドの工事を行っていくのですが、そのプロジェクト(工事)に関わる企業の思いや業務が合致(GACCI)してほしいという思いで付けました。

― 分かりやすくて良いですね。スタートアップ支援をするデジタルガレージの崎島さんと松田さんの役割について教えてください。

崎島:私はインキュベーション本部の本部長として、デジタルガレージの決済やマーケティング、スタートアップ投資をはじめとしたさまざまな事業アセットを活かして新規事業を創出する役割を担っています。この度、私はGACCIの社外取締役に就任させていただきました。デジタルガレージの代表の林も私も、Onlabのアクセラレータープログラムを通じて出会ったGACCIに可能性を感じています。また、今後もGACCIのように投資先スタートアップがデジタルガレージの持つリソースへよりいっそうアクセスしやすくなるように、事業と投資を繋ぐ役割も果たしたいとも考えています。

松田:私はオープンネットワークラボ推進部の部長として、Onlabの取り組み全般を統括しています。デジタルガレージでは、Onlabを介してスタートアップの皆さんとの接点をつくる役割を担っており、国内や海外から集まる優秀なスタートアップに私たちデジタルガレージグループが持つリソースを注ぎ込んで支援しています。また、デジタルガレージの子会社であるDGインキュベーションでは、ファンド運営を通じてスタートアップ出資と経営支援を行っています。現在、インキュベーション本部にOnlabが合流し、これまで以上にスタートアップの事業をより加速させる取り組みも始めています。

ベータ版に苦戦。DGのエンジニア支援によって正式版リリースを実現

― 2022年11月の取材でお伺いして以来、GACCIはどのように変化していますか?

若本(GACCI):当時は年内にメンバーを10名に増やす目標を掲げていましたが、現在は業務委託のメンバーを含めて15名のチームになり、エンジニアやセールス、人事など各ポジションにメンバーが揃ってきています。ここ最近の採用でインパクトがあったのは、建設業界を熟知している方が入社してくださったこと。業界未経験のメンバーたちはさっそく沢山の知見やノウハウを彼から学んでいます。

― 若本さんがOnlab第25期を卒業してから見えてきた課題や挑戦は何でしょうか。

若本(GACCI):建設業界に従事している方々はITやデジタルに苦手意識があるので、良いプロダクトを作るだけでなく、それを現場の方々にきちんとご理解いただき、正しくお使いいただくためにオンボーディングを工夫する必要があると感じています。今後の挑戦として、見積りをしたり予算を組んだりする私たちのプロダクトはフィンテック領域との相性が良いのではないかと予想しており、実際に中小企業の資金繰りなどでお客様からのお声を頂いているので、しっかりとニーズをカバーしながらGACCIをより良いプロダクトに進化させていこうと計画しています。

― 2023年4月にプロダクトがリリースされたとのことですが、そこに至るまでの経緯をお聞かせいただけますか。

若本(GACCI):2023年1月にベータ版を公開した時、バグが発生してプロダクトが一部正常に動きませんでした。原因は、短期間で一気にメンバーが増えた環境で、文脈を共有しながら進められなかったことが考えられます。そんな反省を踏まえながら仕切り直し、今回の正式版のローンチまでこぎ着けました。多くのお客様にプロダクトを触っていただくのは4月からですが、開発段階に携わってくださったお客様に連絡したところGACCIを覚えていてくださって「本当にできたんですね!」と、有難いお声を頂いています。

― デジタルガレージやOnlabからの支援で、印象に残っていることはありますか?

若本(GACCI):ご支援いただいた中で最も嬉しかったのは、デジタルガレージの皆さんのリソースを活用させていただいたことです。具体的には、ベータ版から仕切り直すタイミングで、デジタルガレージの技術部門であるDG Technologyから優秀な人材を紹介していただき、技術的なサポートをしてくださったことは大きかったです。また、定期的に壁打ちする時間を設けてくださったおかげで、さまざまな課題をすぐに相談できました。

株式会社GACCI 代表取締役CEO 若本 憲治

OnlabはPMFに達成するまでに必要な経営や技術、営業をバックアップ

― Onlabでは、スタートアップがPMFに達成するまでの間、経営支援や技術開発支援、営業支援を行っていると伺っています。それぞれどのような内容でしょうか。

松田:経営支援では、事業計画をどのように作っていくのか、お金の流れをどのように管理していくのか、細かい話では事業を拡大していく中で人事・労務をどのように管理するべきなのかなど、スタートアップがやるべきことが続々と出てきますので、私たちが都度お伝えしたり、状況に合わせて専門家を紹介したりしています。スタートアップ経営者に全てが得意な方なんてほとんどいません。「これは得意だけど、これはやったことがない」「これは専門家の話を聞きたい」など、その経営者に合わせてサポートしています。また、スタートアップによって進捗や課題は異なるので支援の内容や形式はさまざまですが、若本さんとは毎週ミーティングをし、プロジェクトの進捗や会社の施策について話し合っています。例えば、経営戦略やサービス展開におけるマイルストーン、今後の展望をディスカッションしていますね。

次に、技術開発の支援では、GACCIは自社でも開発体制を組んでいますが、GACCIだけでは達成できないような専門性の高い分野にチャレンジしていることからデジタルガレージのUIUXやエンジニアリングの専門部隊が入っています。営業支援では、デジタルガレージのマーケティング部門や建設業界に知見のあるグループ会社に協力を仰ぎながら推進していこうと考えています。

株式会社デジタルガレージ オープンネットワークラボ推進部長 松田 信之

― デジタルガレージやOnlabが営業面でスタートアップを支援することは、具体的にどのようなメリットがあるのでしょうか。

松田:Onlabはプログラムでの採択と同じタイミングでスタートアップに投資していますが、他のベンチャーキャピタルと異なるのは、Onlab運営の母体であるデジタルガレージにはさまざまな事業やアセットがあることです。出資だけでなく、人を介したノウハウやネットワークなどを支援に活かすことで、スタートアップは事業成長の加速化が実現できます。例えば、スタートアップが大企業へ初対面で事業提案や営業をしていくにはお互いの課題を知るところから始めるなどコストや負担がかかるので、投資家がこれを実施する意味は大きいのです。

何よりも、Onlabというアクセラレータプログラムを通じ、スタートアップも私たちもお互いに事業内容や課題を熟知した上でシームレスに連携できるのは強みです。デジタルガレージにとっても投資のみならず、新規事業をスタートアップとともに構築していくのは大きなインパクトがあります。当然ながら、スタートアップに対して「デジタルガレージの事業」としての可能性は判断していますが、デジタルガレージやOnlabを通じて支援する投資先に資金以外にもデジタルガレージ全体のアセットを提供して業界や世の中を変えていくことを目指しています。

― GACCIが目指すプレコンストラクション領域のDXにおいて、崎島さんはデジタルガレージやOnlabでどのような支援を想定していますか?

崎島:私たちデジタルガレージは決済やマーケティングといったさまざまな事業を展開している背景から多くの産業を見ていますが、建設領域でDXが発展していくことへ非常にポテンシャルを感じています。若本さんのチームのように、建設業界で業務に携わる方々のニーズや課題をつぶさに把握してサービスにしている方はなかなかいらっしゃいません。また、Onlabを通じてデジタルガレージにはさまざまなスタートアップの成功経験や失敗体験、私たち自身の事業経験を経て専門性に富んだ人材も揃っています。若本さんたちのチャレンジに伴走することで困ったことを一緒に解決できると考えています。

― GACCIの他にもスタートアップを支援した事例はありますか?

松田:不動産業界や建築業界の非効率な業務を改善し、不動産管理業界のDX推進を後押しするAI不動産管理プラットフォーム「管理ロイド」を提供している「THIRD」というスタートアップです。DGベンチャーズの出資先であり、不動産領域に特化したデジタルガレージのアクセラレータプログラム「Onlab Resi-Tech」で第1期最優秀賞に輝いたスタートアップでもあります。ビルのメンテナンス業務をDXにすることを目標に掲げ、不動産デベロッパーが協賛事業として入っています。デジタルガレージは開発段階から技術的に支援し、サービスの方向性にもアドバイスしながら不動産デベロッパーとのPoC(Proof of Concept:実証実験)を伴走しました。そんな中から「管理ロイド」が立ち上がり、現在は不動産デベロッパーからの出資も受けてますます進化しています。

アクセラレータープログラムだけではない。スタートアップのニーズに合わせた支援

― GACCIの組織作りで注力していることは何でしょうか。

若本(GACCI):オープンなコミュニケーションを取ったり、同じようなタイプの人材ばかりを集めないように、できるだけ違うタイプの人材をバランス良く配置したりすることを心がけています。GACCIには職人のように技術を極めたいメンバーや新しい領域に挑戦したいメンバーなど多種多様な人材が揃っていますが、彼らに共通しているのは「これからどうしていこうか」と常に先を見ていること。当然、それぞれが大切にしたいことは異なるので、それをきちんと汲み取りながらチームを組んでいますね。また、失敗を恐れずに挑戦しようとみんなで握り合っていて、問題が起きた時は私が動くのではなく、誰かが真っ先に仲間をフォローするカルチャーが醸成されています。

― 今後、GACCIではどのような人材を採用したいとお考えですか?

若本(GACCI):セールスやカスタマーサクセスは引き続き採用を増やしていこうと考えています。プロダクトがローンチした後は機能追加や保守などで新たな人材が必要になってくるので、エンジニアやデザイナーなどのポジションも積極的に採用する予定です。できるだけオープンマインドな方にジョインしていただきたいと考えており、良いところも悪いところも自己開示できるかを面接で見極めるようにしています。現在、GACCIのメンバーは岡山や鳥取、静岡、東京、神奈川の関東圏とさまざまな地域で活躍しています。「地方に住んでいるから」などと迷わず、お気軽にご連絡いただけたら嬉しいですね。

― 「Onlabはアクセラレータプログラム」というイメージもありますが、投資先や支援先のスタートアップに対して、デジタルガレージグループ全体で多角的な支援をしていますよね。スタートアップがOnlabに応募したり、繋がりを持ったりすることにはどのようなメリットがありますか?

松田:デジタルガレージは、常に新しい技術や新しい社会の潮流の先頭にいます。デジタルガレージの共同創業者である伊藤穰一はベンチャーキャピタリスト、起業家、作家、学者としてグローバルに社会とテクノロジーの変革に取り組み、 ガバナンスや気候変動、学問と科学のシステムの再設計といった課題解決に向けて活動しているので、常に最新情報が入ってきます。そこにアクセスしていただくことで、自分たちの業界や業務に閉ざすことなく「グローバルではどうなっているんだろう?」をキャッチできるようになります。さらに、現在投資として約800億円あり、アメリカをはじめとする海外のシェアが大きく、その観点からもお話しできます。また、デジタルガレージが持っている決済インフラは国内で3本の指に入る規模のサービスになっています。

株式会社デジタルガレージ 執行役員 インキュベーション本部長 崎島 淳一

崎島:世の中にはベンチャーキャピタルを含む投資家、大規模なテックカンパニーも存在しますが、両方を繋ぐプラットフォームはなかなかありません。「帯に短し、たすきに長し」のように、大き過ぎると間尺に合わないですし、ベンチャーキャピタルも私たちほどリソースを持っていない場合もあります。私たちは自ら事業を運営しながらスタートアップの成長をバックアップしているのが特徴であり、強みでもあります。私たちもスタートアップから学ぶことは多いですね。

― ありがとうございます。最後に、若本さんがデジタルガレージやOnlabに今後も期待することをお聞かせください。

若本(GACCI):GACCIのプロダクトを広めていく段階ではここからが本番。しっかりとプロダクトの価値を高め、社会的にペインの大きな課題解決に取り組んでいきたいです。崎島さんがおっしゃるとおり、お互いにゴールを共有した上で新規プロダクトや新規機能を一緒に作っていける関係を築きながら進んでいきます。

(執筆:佐野 桃木 編集:Onlab事務局)

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