2020年05月27日
2019年7月から約3ヵ月間に渡って開催されたOnlab第19期に参加し、同年10月に行われたデモデイで、会場の参加者が選ぶ「オーディエンス賞」に選出された株式会社プレカル(以下「プレカル」)。
プレカルが運営しているprecal(プレカル)は、薬局最大の事務作業である「処方箋入力」を効率化するサービスです。薬剤師による手作業で行われている処方箋入力を代行し、薬局の負担軽減に貢献します。プレカルの代表である大須賀義揮さんは、薬局や大学病院での勤務経験を持つ薬剤師。自身の経験からprecalのサービスを構想し、事業化に結びつけました。
今回は大須賀さんと、Onlabの佐藤直紀、松田信之の3名で、プログラム当時を振り返る対談を実施。薬剤師から起業家を目指すに至った経緯から、Onlabのプログラムにおける試行錯誤、そしてプログラム後のOnlabとの関わりや現在の事業について語り合っていただきました。(大須賀さんの起業のきっかけについてはこちらから)
※以下「プレカル」は会社、「precal」はサービスを表すものとします。
― 大須賀さんがOnlabに参加するまでの経緯を教えてください。
大須賀(プレカル):僕はもともと薬剤師なので、ドラッグストアに勤務したり、薬局を経営したりして、一般の方はなかなか知らない薬剤業界の課題に直に触れていました。そのなかで、とある課題を解決する事業アイデアを思い付いたので、チームを編成して、事業化に動き出すことになりました。
ただ一方で、チーム内に営業経験者が一人もいないとか、ビジネスサイドへの知見が乏しいという弱点があったので、その点を補うためにOnlabに応募しようと思いました。
― そのときに構想していた事業アイデアが、現在のprecalですか?
大須賀(プレカル):いいえ、全く別のアイデアですね。当時、構想していたのはBtoCの「薬の料金比較サービス」のようなものでした。あまり知られていないんですが、実は同じ薬を処方してもらうにも、数百円の差なんですが、薬局ごとに料金が異なるんです。ユーザーは病院で処方してもらった処方箋を薬の価格が安い薬局に持っていく、ユーザーが薬局ごとに比較できるサービスを作ろうと考えていました。かなりの自信でOnlabの面談に望んだ記憶があります…(笑)。
― その時の様子や当初のアイデアの印象って覚えていますか?
佐藤(Onlab):はい。面談をさせていただいて最初に事業アイデアを聞いた時は正直…ちょっと厳しいと思いました。チームメンバーの意気込みがすごかったのは覚えています。
松田(Onlab):薬の値段が違うというユニークインサイトはあったのですが、「あったらいいな」とは思うけど、事業化するほどではないかなと。値段の差も少額なわけだし。
大須賀(プレカル):はい。そのアイデアはOnlab参加後、すぐにピボットすることになりました。たしかスタートから2、3日後だったと思います。正直、内心では自信満々だったので結構落ち込みましたね(笑)
ただピボットをすぐに決意できたのも、メンターから的確なフィードバックがあったからなんですよ。プログラムの初日に「スピードメンタリング」といってメンターの一人ひとりに事業アイデアを説明してフィードバックをもらうんです。
当初の「薬の料金比較サービス」では、薬局側から収益を得るビジネスモデルを想定していたんですが、とあるメンターに「値段を安くしている薬局から、さらにお金を取れるの?」と指摘されて、これは致命的な欠陥があるビジネスだと気付かされました。
それからはひたすら課題の設定と検証を繰り返しました。事業アイデアを考えて、リーンキャンパスを書き起こして、検証用のアンケートを作成して、ターゲットの事業者を選定して、事業者の方にアンケートを実施して、という工程をぐるぐる回し続けて…。気付いた時には、ピボットは7回目になっていたんですが、その結果たどり着いたのがprecalの事業アイデアでした。
― precalの事業アイデアに狙いを定めたのには、何か理由があったんですか?
大須賀(プレカル):これもメンターの方が助言してくれたことなんですけど、「検証のアンケートで5人続けて好感触を得られたら、そのサービスには可能性がある」と。その基準に従って検証を続けていたら、7回目のprecalのときに初めて5人連続で好感触だったんですよ。そのときの解放感は忘れられないです。「やっといい報告ができるぞ!」と心が弾みました。プログラムがスタートしてから、ちょうど1ヶ月後くらいのことです。
佐藤(Onlab):その頃のことはよく覚えています。当時は毎週「オフィスアワー」という全体での進捗報告会を開催していたんですが、最初の1ヶ月くらいまでは、大須賀さんの報告が自信なさげというか、どこかご自身でも腑に落ちていない印象でした。それがprecalのアイデアが固まってからは、誰のどんな課題を解決するのか、ターゲットのセグメントはどこに設定するのかといった内容がどんどん明確になっていって、「どうやら見つけたな?」とその自信が伝わってきましたね。
― 試行錯誤の末に生まれたのが、precalの事業アイデアだったんですね。そこに至るまでに、Onlabの支援で役立ったものはありますか?
大須賀(プレカル):「オフィスアワー」で事業アイデアへのフィードバックを受けられたことはもちろんですが、メンターからの個別のメンタリングはとても助けになりましたね。Onlabのスタッフの方にマッチングしてもらって、具体的なビジネス戦略から、事業に向き合うマインドセットまで、メンターに直接教えていただきました。
例えば、前田ヒロさん(BEENEXT マネージングパートナー)はグローバルファンドでの経験が豊富なので、「大企業と協業するためにはどうすればいいですか?」と聞いたり、またOnlab卒業生の橋本直也さん(小児科オンライン代表)は、医師経験を生かして起業されたのが僕と似ているので、「事業初期にはどんな活動をしていましたか?」とか具体的な事例を聞いたりして、事業開発に役立つ知識を一気に吸収できました。
佐藤(Onlab):大須賀さんには、事業におけるマクロとミクロの両方の視点を身に付けてほしかったんです。事業開発には、ビジネスモデルの設計や市場環境の分析といったマクロなレベルと、いちユーザー目線で課題解決を試行錯誤するミクロのレベルが存在するので、それぞれの知見を持つメンターとマッチングしていました。
大須賀(プレカル):佐藤さんには、インタビューに同席してもらったこともあります。インタビューも初めてでどんな話をしたらよいのか分からなかったので、一緒に話を聞いてもらって、終了後に僕のインタビューに対するフィードバックをもらったりしたんです。そうした細やかな支援もしていただいたので、本当にOnlabのスタッフの方にはお世話になりましたね。
― Onlabではプログラムの最後にピッチの練習もされるんですよね?
大須賀(プレカル):はい、最後の2週間でみっちり時間をかけてやりました。
松田(Onlab):大須賀さんは薬剤業界の方なので、ピッチでは聴衆との間に常識のギャップができてしまうのが課題でした。大須賀さんにとっては説明するまでもないことも、聴衆にとっては初耳の情報だったりする。その逆に、素人には理解できない難解なことを細かく説明してしまうこともありました。なので、私たちが「そこをもっとアピールしたほうがいい」とか、「その情報は省いた方が伝わりやすいよ」といったアドバイスをして、聴衆のレベルに合わせた内容に調整していきましたね。専門業界を熟知している一般の起業家にも同じことが言えるのですが、Onlabのピッチの場合だと投資家に向けたものなので、ピッチの目的に応じた客観的な視点を入れるとより事業がブラッシュアップされていきますね。
大須賀(プレカル):薬剤業界以外の方からの客観的な視点は、本当に役立ったと思いますね。おかげで良いピッチになったと思いますし、実は現在もそのピッチをベースにして営業先や事業説明を行う場面で今も使っています。
2019年10月にデモデイが開催され、プレカルは会場の参加者が選ぶ「オーディエンス賞」を受賞して、第19期のプログラムを終えました。2020年4月にはprecalのβ版サービスの提供を開始して、勢いに乗っています。
― Onlabではプログラム卒業後の支援も行なっていると伺っているんですが、プレカルにはどのような支援をしているんですか?
大須賀(プレカル):事業開発で分からないことがあったら、何でも質問して、答えてもらっていますね。正直、部外者の方が聞いたら「え?そんなことまで聞いていいの?」と驚くぐらい、瑣末な質問もしています。
松田(Onlab):この間も大企業に提案した後の反応に対して質問いただいて、大企業の進め方やスピード感、論点等に関してチャットベースで密に返信することがありました。つまり、支援というよりも、二人三脚で事業を推進しているという感じに近いかもしれません。
佐藤(Onlab):それ以外にも、例えば卒業直後には、大企業向けの提案書作成をサポートしたり、最近だと業務提携の提携先選定のコツをレクチャーしたり、ファイナンス面だと補助金相談や事業計画レビュー、プレシリーズAに向けた戦略を一緒に検討したり、卒業後の支援は多岐に渡っていますね。
― 他の卒業生にも、そうした細やかな支援をされているんですか?
松田(Onlab):はい。企業によって支援内容は異なりますが、Onlabの中にアクセラレータープログラムとは別の卒業生支援のチームを設けて対応しています。もちろん卒業生スタートアップ各社の細かな質問に答えていくことも重要ですが、Onlabの場合、支援先が多岐に渡るので、各社の成長のボトルネックを特定し、課題やニーズごとの勉強会などの学びの場を提供するような支援もしています。やはり起業家の方って、「一点突破型」というか、なにか一つの高い専門性を生かして起業されるタイプが多いので、専門分野以外の資金調達だとか、企業間の交渉だとかの支援や学びは必要なのだと思います。Onlabには特定業界という意味での専門性は無いですが、ビジネスサイドの領域には強みを持っているので、できる限りサポートはしたいと考えています
― 大須賀さんがOnlabのプログラムを経験して、良かったと感じる点はどこでしょうか。
大須賀(プレカル):一言では言い尽くせないんですが、あえて一つ挙げると、自分のビジネスに対する知見を補ってくれた点ですかね。やはり薬剤師だったということもあって、事業開発は知らないことだらけで不安でした。その点、OnlabはVCとアクセラレーターが共存しているプログラムですし、事業開発について資金面とビジネス面の両面から幅広く学べました。専門性を軸に起業する、僕みたいなタイプの起業家にはすごく相性の良いプログラムだと思います。
― なるほど。逆にOnlabのお二人は、大須賀さんのどういった部分が優れていたと思いますか。
松田(Onlab):大須賀さんは真面目で、きちんと毎週コツコツ成果を積み上げていっていましたね。課題の設定や検証も着実に進めていましたし、その点は第19期のなかでも特に優れていたと思います。
佐藤(Onlab):それと大須賀さんは、アドバイスを受けるのがすごく上手かったです。人に話をさせる能力が高い。Onlabではスタートアップが車輪を再発明するようなことを減らすためにも、メンターのマッチングやユーザーヒアリングを重視していますが、中でも大須賀さんはディスカッション相手に対し「ぜひ教えてください」という姿勢で一回一回の打ち合わせを最大限活用していたように思います。プログラムの3ヶ月間で、一番情報を抜き取って成長したのは大須賀さんかもしれません。
大須賀(プレカル):はじめのうちは本当に無知すぎて(笑)、出会う人の全員が先生だったんです。
松田(Onlab):いずれにせよ、プレカルはOnlabのメソッドに真正面から取り組み、忠実に実践して、成果を挙げた企業だと思います。卒業後も事業を伸ばしていますし、Onlabに参加される企業の見本的存在といえます。
「業界の知識はあるけど、ITやスタートアップの知識が少ない」という方だからこそ作れるサービスは必ずあります。いわゆるDX(Digital Transformation)という分野での起業に興味のある方は、是非お気軽にOnlabにご相談ください。
< プロフィール >
株式会社プレカル 代表取締役 大須賀 善揮
北里大学薬学部を卒業後、薬剤師として薬局、ドラッグストア、大学病院に勤務。2017年1月に介護施設専門の調剤薬局を運営する株式会社pharbを独立起業。2019年7月からは株式会社プレカルを立ち上げ、薬局における処方箋入力の事務作業を効率化するサービス「precal」を開発・運営している。
< プロフィール >
Open Network Lab プログラムディレクター 佐藤 直紀
東工大大学院在学中にシードアクセラレータープログラムに参加し起業、その後グリー株式会社やFintechスタートアップにて、新規事業の立ち上げ・資金調達・企業売却等に従事しOpen Network Labに参画。Open Network Labでは、アクセラレータープログラムの企画、スタートアップへの投資・経営支援業務に従事。
Open Network Lab 松田 信之
東京大学大学院在学中に学習塾向けコミュニケーションプラットフォームを提供するスタートアップを共同設立。2008年4月より株式会社三菱総合研究所において、民間企業の新規事業戦略・新商品/サービス開発に係るコンサルティングに参画。スタンフォード大学への留学後、Open Network Labに参画。Open Network Labではスタートアップへの投資事業・卒業生への事業支援に従事。
(執筆:島袋 龍太 編集:pilot boat、Onlab事務局)
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